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福島地方裁判所 昭和37年(行)1号 判決 1962年12月24日

原告 昭和化学工業株式会社 破産管財人 片岡政雄 外一名

被告 福島税務署長

主文

被告が、原告片岡政雄の訴外福島県労働金庫に寄託した定期預金六〇〇、〇〇〇円の返還請求権につき、昭和三七年一月一三日になした債権差押処分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告らは主文同旨の判決を求め、その請求の原因としてつぎのとおり述べた。

一、原告らは福島地方裁判所昭和二六年(フ)第三号破産事件につき、昭和二八年一月一六日訴外破産者昭和化学工業株式会社(以下破産者という。)の破産管財人に選任せられてその職務執行中である。

二、原告片岡政雄は、破産管財事務に基いて訴外福島県労働金庫に対し、定期預金六〇〇、〇〇〇円(満期日昭和三七年六月二一日)を寄託したので、原告らは右定期預金返還請求権を有している。

三、ところが被告は、破産者に対しその滞納に係る国税(法人税、源泉所得税およびこれらに付加すべき加算税、利子税、延滞加算税等を含む。)合計金五九八、九四〇円の徴収目的のため、前記返還請求権全額に対し、昭和三七年一月一三日差押処分をなした。

(なお、右差押債権の昭和三七年一〇月一五日現在における数額は別表第一記載のとおり。)

四、しかしながら、破産財団に属する財産に対する国税徴収法の滞納処分による差押は、破産宣告前において既にその処分に着手している場合においてはこれが続行は妨げない(破産法第七一条第一項)が、破産宣告前に右滞納処分に着手することなく破産宣告に至つた場合には、破産法第四七条第二号により国税徴収法により徴収することを得べき請求権(以下国税債権という。)もまた財団債権とされるところ、一般に財団債権者は、破産財団に属する財産につき個別的強制執行は許されないものであり(もしこれを許すときは、破産法第五一条所定の財団債権平等弁済の原則に違背し同法第二八六条所定の制限を潜脱するに至る。)破産宣告後においては、財団債権たる国税債権の滞納処分もまたこれをなしえない理であつて、さればこそ改正国税徴収法第八二条同法施行令第三六条も旧法と同旨であつて、滞納者の財産につき強制換価手続が行われた場合には、滞納に係る国税につきこの行使の方法として交付要求をなすべきことを定めている次第である。(東京地裁昭和三四年三月二五日判決行政事件裁判例集昭和三四年度第一〇巻第三号参照)

なお、被告は本件滞納に係る国税として前記のとおり合計金五九八、九四〇円をもつて差押処分をなしたけれども、右金額は本件差押処分当時の数額であつて、被告が原告らに対し昭和三〇年二月二二日付通知してきた昭和二八年二月一四日付交付要求書の記載によれば、別表第二記載のとおり合計金四〇七、三二二円であつたところ、このうち原告らは被告に対し昭和三四年九月一一日金三二、〇〇〇円を支払つたので、破産法第四七条第二号の財団債権として被告の有する国税債権は金三七五、三二二円に止まる筋合であるから、これを超え破産宣告後の各種付帯税を加算請求した本件差押は、その請求自体違法である。よつてその違法であること明らかな本件差押処分の取消を求める。

五、なお原告らは本件訴訟提起の日である昭和三七年一月一六日付で、国税徴収法第一六六条所定の被告に対する再調査の請求をしたが、被告は前同日原告らに対し本件差押処分は仙台国税局の指示に従つてなされたものであつて、該差押処分は適法である旨言明し、かつ本件定期預金を満期日に取立てようとしているところ、原告らは右定期預金を引当として、中間配当手続を実施しようと計画中であるから、被告に右取立を実施せられるときは、原告らの破産管財事務の処理に重大な支障をきたすおそれがあり、結局前記再調査、審査の決定をまつて本件訴を提起していると著しい損害を生ずるおそれがあるから、右各決定を経ることなく本訴に及んだ。

と述べ、被告主張の事実中、その主張のとおりの各交付要求があつたこと、原告らにおいて各強制競売の申立をなし、いずれも競売申立事件として係属したこと、各物件につき抵当権が設定されていたこと、その売得金を処理したこと、ならびに被告および訴外福島市に対し、その主張のとおり配当したこと、被告において昭和三六年一月一三日催告をなしたが原告はこれに応じない旨の回答をなし、その後被告は配当を求めてきたが、原告らはこれに応ぜず、原告主張の日に配当公告をしたことはいずれも認めるが、被告において原告らに対し屡々優先弁済を求め、その主張のように昭和三六年一二月中に監督権の発動を促したが原告らに対し影響はなかつたとの点はいずれも知らない。その余の事実はすべて否認する。と述べた。

被告指定代理人は、本案前の答弁として「原告らの訴を却下する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、その理由として原告らの本案前の主張事実中、原告ら主張の日にその主張のとおり再調査の請求をしたこと、被告においては本件定期預金につき原告ら主張のとおり取立しようとしていたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件差押の対象は金銭債権であるから再調査の決定もしくは審査の決定を経ることにより著しい損害を生ずるおそれがある場合(国税徴収法第一六九条第一項第三号)に該当しないから、右決定を経ない原告らの本件訴は不適法である。と述べ、

本案に対する答弁として「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁および被告の主張としてつぎのとおり述べた。

一、原告ら主張の事実中、第一ないし第三項および第四項中本件差押処分をなした滞納にかかる国税債権中には破産宣告後の期間の付帯税が含まれていることは、いずれも認めるが、第四項中その余の点についてはこれを争う。

二、本件差押の経緯はつぎのとおりである。

破産者は昭和二五年頃訴外油糧砂糖配給公団に対し、金五五、九七七、四二三円の損害賠償債務を負担するに至り、昭和二六年九月七日右公団から破産申立をうけ、昭和二八年一月一六日午前一〇時福島地方裁判所において破産宣告をうけた。そこで被告は原告らに対し旧国税徴収法施行規則第二九条により昭和二八年二月一四日当時の滞納国税金三三三、八八二円につき交付要求をしたが、その後における原告らの破産財団の構成および破産配当実施の概況ならびに被告の交付要求の経過は左の通りである。

(1)  原告らは福島市大町一三番地所在家屋番号同町二二番一棟ほか一二筆について破産者を被申立人として福島地方裁判所に対し強制競売の申立をなし、同庁昭和三〇年(ヌ)第一号第二号として係属したので、被告は、昭和三〇年一月二一日付滞納税金三三三、八八二円につき交付要求をしたところ、右競売物件中福島市大町一三番地所在家屋番号同町二二番一棟については、昭和三一年一月三〇日競落許可決定があり、該家屋には根抵当権が設定されていたが、その被担保債権はいずれも旧国税徴収法第三条所定の国税に優先する根抵当権付債権ではないから、原告らは、前記交付要求に応じ被告に対し右競落による売得金を優先弁済すべきであるのにかかわらず、これをなさず、右競落代金から諸経費を控除した残金六〇四、六〇〇円を破産財団に組入れた。

(2)  つぎに原告らは破産者を被申立人として破産者所有の通称泉工場につき前同庁昭和三〇年(ヌ)第一七号強制競売事件を係属せしめたので、被告は、昭和三〇年四月一二日付で滞納税合計金三三三、八八二円につき交付要求をしたところ、昭和三一年六月二二日競落許可決定があり、売得金八、〇四〇、〇〇〇円を計上したのであるが、原告らは右競売物件中無担保物件に係る売得金を金八五一、四六〇円、別除権(左記抵当権)の目的物件に係る売得金を金七、一八八、五四〇円と計上したうえ、前者については、諸経費を控除した残金七八九、三二九円を破産財団に組入れ、後者については、諸経費合計金五二四、五四七円を控除した残金六、六六三、九九三円全額を左記各抵当権者に配当した。しかしながら右破産財団への組入ならびに別除権者に対する配当の手続は、国税の交付要求を考慮しない誤がある。すなわち右抵当権は、

抵当権者    抵当権額または根抵当権極度額   設定登記年月日

A  株式会社東邦銀行 極度額金   六〇〇、〇〇〇円  昭和二三年二月二一日

B  同        同  金 二、四〇〇、〇〇〇円  昭和二四年一二月二一日

C  中小企業金融公庫    金 一、五〇〇、〇〇〇円  昭和二五年一〇月二三日

D  商工組合中央金庫 極度額金三〇、〇〇〇、〇〇〇円  昭和二六年一月二九日

E  株式会社東邦銀行 同  金 五、〇〇〇、〇〇〇円  同   年六月三〇日

であるから、前記交付要求をした国税債権中

(イ) 昭和二六年度法人税金六九、四五二円は、納期は同年一月三一日であるから、その一年前以後に設定したC・D・Eの各抵当権に優先し、

(ロ) 同年度源泉所得税金一五〇、四九〇円は、納期は同年五月二〇日であるからその一年前以後に設定したC・D・Eの各抵当権に優先し、

(ハ) 同年度源泉所得税金一〇四、一九〇円は、納期は同年八月三一日であるから、前同様にしてC・D・Eの各抵当権に優先し、

(ニ) 同年度源泉所得税加算税金九、七五〇円は、納期は昭和二七年四月二五日であるから、その一年前以後に設定したEの抵当権に優先する

筋合であるから、前記配当しうる金六、六六三、九九三円から、右A・Bの債権合計金三、〇〇〇、〇〇〇円に対する諸経費を控除した残額合計金一、五〇九、五六七円を控除した金五、一五四、四二六円をもつて、被告の交付要求に応じるのが適正な配当であるというべく、かりに前記交付要求した滞納国税債権が、これらの抵当権付債権にいずれも劣後するとしても、原告らはなお、前記のとおり無担保物件に係る売得金七八九、三二九円を破産財団に組入れ得たのであるから、この組入分をもつて交付要求に応ずるべきであり、また応じえた次第である。

(3)  さらに原告らは、昭和三一年六月一六日破産者に対して、福島市大字森合字前田一七番地所在家屋番号同大字第三〇九番の家屋につき、強制競売を申立て、前同庁昭和三一年(ヌ)第三三号として係属したので、被告は、昭和三一年七月一三日滞納国税債権金三三三、八八二円について交付要求をしたところ、右家屋につき昭和三二年一月二五日競落許可決定があり、原告らは同年二月二二日右売得金を前同庁から受領したのに、被告の交付要求に応じない。

三、ところで原告らは、被告の再三にわたる督促・催告によつて、昭和三四年九月一一日にいたり前記交付要求額の九分五厘強に相当する金三二、〇〇〇円の配当をしたものであるが、同時に配当された福島市税については、その交付要求額金三四三、七三〇円に対し七割強に相当する金二四三、七三〇円を配当し、同種の財団債権についても不平等な配当をあえてした。

このようにして昭和三四年九月一四日現在において、原告らの保有する破産財団収入現金額は金六、〇二三、五八五円に達した。

四、そこで被告は原告らに対し、昭和三六年一月一三日財団債権として残額の配当方を催告したが、原告らは同年八月二三日国税に対する配当は、前回配当以上のものは配当できない旨回答し、その後の被告の履行の請求にも応じないで、昭和三六年一二月二二日付官報をもつて、破産債権者に対し金三、〇〇〇、〇〇〇円の配当をなす旨公告したので、被告は同月二五日および二六日の二回にわたり、原告らに対しては、滞納国税債権への優先弁済を求め、さらに被告は、同月二五日および二七日の二回にわたり、仙台国税局長は、同月二七日いずれも破産裁判所に対し、原告らに対する監督権の発動を促したが、原告らに対しなんら影響を及ぼすに至らなかつた。

五、以上の次第で被告は、本件差押処分に及んだものであつて、本件差押処分は適法であり、その理由の詳細はつぎの通りである。

(1)  本件差押の根拠法規は、現行国税徴収法および国税通則法であるところ、国税徴収法第四七条によれば「国税通則法第三七条第一項各号に掲げる国税をその納期限までに完納しないときは、滞納者の国税につきその財産を差押えなければならない。」旨規定し、右国税通則法第三七条第一項第一号には「次条第一項(中略)の規定の適用をうけた国税」とあり、同法第三八条第一項第一号には「納税者の財産につき強制換価手続が開始されたとき」と定めているが、右強制換価手続中には破産手続をふくむこと国税徴収法第二条第一二号により明らかである。そして右諸規定は、旧国税徴収法(明治三〇年法律第二一号)と異り、滞納者につき破産手続が開始されたときは、差押をなすべき旨明文をもつて定めたものであつて、原告らの援用する裁判例は、旧国税徴収法施行の時代になされたものであるから、本件について適切ではない。

なお被告は、旧国税徴収法の下においても、破産宣告後の滞納処分は適法であると解するものであり、その理由は別紙(昭和三七年四月四日付第一準備書面添付の別紙)のとおりであるが、これを補足すべく原告ら援用の裁判例につき被告の意見をつぎのとおり述べる。

(イ)  右裁判例は、国税債権の行使に関する国税徴収法同施行規則等に何らかの特別の規定があれば、本件の如き差押処分を許すべき旨判示しているところ、前段主張のとおり現行法は、この旨明文の規定を有するから、既にこの点において右裁判例は原告らの主張を支持するものとはいえない。

(ロ)  また右裁判例は、もし破産管財人において財団債権につき不平等な弁済をなす場合には、破産裁判所の監督権の発動を促せば足る旨判示するけれども、本件被告は前述のとおり破産裁判所の監督権の発動を促したにも拘らず、その実効を期すことを得なかつた次第であるから、右判示は結局実務に即さないものである。

(ハ)  更に右裁判例は、性質上本来財団債権となすべきでない国税債権が、財団債権の列に加わり、破産手続によらずに弁済を受けられるということ自体、それが任意弁済に止まる場合でも、その公益性は十分満足させられていると判示しているけれども、既に国税債権において破産法上他の債権とともに財団債権とせられているのであるから、ことさら国税債権のみにつきその性質を云々して、この間に優劣を認めることは解釈論としては妥当を欠くといわなければならない。

(2)  原告らは破産宣告後の期間に対応する付帯税は、財団債権ではない旨主張するけれども、利子税は、本税を法定の納期限後に納付する場合に、遅延日数に応じ一定の割合で算出し、本税とあわせて納付すべきものであり、延滞加算税は、督促状を発した日から起算して一〇日を経過した日までに本税の納付がない場合、その翌日から本税納付の日まで一定の割合で算出し、これをその本税の属する税目の国税として加算徴収するものであつて、いずれも消滅時効・納期限とも本税のそれに従う定めである。また利子税の納税義務は、法定期限後申告にかかる国税にあつてはその申告により、また申告がないため決定された国税にあつてはその納税告知により、いずれも法定期限の翌日から本税納付の日までの分について確定するところ、本件法人税については、法定納期限である昭和二六年一月三一日を経過した同年六月三〇日付で申告がなされ、源泉徴収所得税中本税金八九、二四〇円については、同年五月四日、同金九一、六九〇円については、同年八月一六日それぞれ納税告知をしているのであるから、本件破産宣告前各利子税について納税義務が確定している筋合であり、また延滞加算税については、督促とあわせて発する延滞加算税納税告知書により、督促状を発した日から起算して一〇日を経過した日(旧法においては指定期限)までに納付されないことを停止条件とし、本税納付の日までの分(ただし本税の五分を限度とする。)につき指定するところ、本件法人税については、昭和二六年七月二三日を指定期限として同月一一日督促をなし、源泉徴収所得税については、同年六月二五日および同年一〇月二三日をそれぞれ指定期限とし、同年六月一二日および同年一〇月一三日にそれぞれ督促をしているのであるから、右延滞加算税についても既に本件破産宣告前その納税義務が確定している筋合である。

そうすると、各付帯税は、いずれも本件破産宣告前その納税義務が確定しており、その各本税は、破産宣告後の原因に基ずく請求権以外の国税債権として財団債権とせられるのであるから、右各付帯税もまた同種の財団債権とせられなければならない。

(証拠省略)

理由

破産者が昭和二八年一月一六日午前一〇時福島地方裁判所において破産宣告をうけ、原告らがこの破産管財人に選任せられ、現にその職務執行中であること、被告が原告らに対し屡々破産者滞納にかかる国税金につき交付要求をしたが、原告らにおいて昭和三四年九月一一日金三二、〇〇〇円を納付したのみで残金につき納付することなく、昭和三六年一月一三日付の配当方催告に対しても之に応ずることができない旨の回答をなし、同年一二月二二日付官報をもつて破産債権者に対し金三、〇〇〇、〇〇〇円を配当する旨の公告をしたので、被告は、原告片岡政雄が破産管財事務に基いて、訴外労働金庫に寄託していた満期日を昭和三七年六月二一日とする定期預金六〇〇、〇〇〇円の返還請求権に対し、同年一月一三日破産者滞納の国税債権金五九八、九四〇円の徴収目的のために差押をなしたこと。および右差押債権は昭和三七年一〇月一五日現在別表第一記載のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。

そして被告のなした右差押処分に対し、原告らは昭和三七年一月一六日付で再調査の請求をしたこと、そのころ被告は右定期預金を前記満期日に取立しようとしていたことについては当事者間に争いがなく、右再調査の請求に対し、本件口頭弁論終結当時その決定がなされていないこと、および右請求の日から口頭弁論終結時までに六か月以上の期間が経過していることは弁論の全趣旨により認められ、本件差押処分に対して再調査の請求をなしても被告の容れるところとならないであろうことは弁論の全趣旨および本件記録編綴の原告ら作成の上申書の記載に徴して明らかである(当裁判所はこの事実をもつて国税徴収法第一六九条第一項第三号所定の正当な事由がある場合にあたると解する。)から、その余の判断をするまでもなく、本件訴は国税徴収法所定の要件を具備した適法なものと認める。

そこで本件滞納処分が適法であるか否かについて検討するのに、当裁判所は左記理由により、破産宣告後は、新たな差押処分をなしえないものと解する。

一、破産は、共同債務者たる破産者の総財産によつて、その総債権者に公平な満足を与えるために行われる包括的もしくは一般的強制執行と称されるけれども、それは債権者が債務者の個々の財産から個別的に満足を受けることを保障する手続である通常の強制執行(以下個別執行という。)の単なる集合ではない。破産は積極財産の不足を前提とし、債権者の競合は必然的であるところから、債権者間の利害の対立を調整し公平を図るため原則として個別執行を禁止し(破産法第七〇条)、破産手続に参加することを強要し(同法第一六条)、破産者の総財産の管理処分権を破産管財人に委ね、破産管財人の職務処理を通じ、債権者の公平な満足と一般社会の経済的恐慌の防止ならびに破産者の再起または経済的更生を期するものであるが、破産者の全財産関係の清算を必要とする点では、解散法人や相続人不存在の相続財産の清算のような技術を必要とし(ただこれらの清算は、清算の結果の残余財産を予想し、これを確定することを主眼とするのに対し、破産は前記のとおり積極財産の不足を前提とし、消極財産を充足させる点に重点がおかれ、また債権の国家権力による保護の見地からすれば、個別執行禁止の代償たるの意味をも併有するので、国家権力の発動が強化され、被清算人である破産者の地位は著しく後退を余儀なくされ、その清算も破産管財人の主宰のもと他律的に行われることを特色とする。)、このため破産は、究極において執行的性格をもちながら、清算的手段が要求されるわけである。このように破産管財人の職務は、否認権行使等破産財団の構成の事務および財団に属する財産の換価の事務ならびに破産債権の調査・確定の事務等を通じては、公の機関として破産手続に関与するものとして、前示執行的性格を著しく顕現する一方、財産の評価、各債権者との折衝、配当計画の立案および実施等の事務にあたつては、財産の管理処分権者として極めて高度の経済主体たる能力および技術を要求されるに至るものであるから、破産法は破産管財人に対し、公の機関としてその職務を執行する者となし、かつその高度の法技術能力の発揮により、破産手続を破産管財人の統一的な規制に服さしめ、その広範な裁量と責任のもとに右手続の円満な進行を期し、もつて前掲破産制度の目的の達成を期待するものと解するのが相当である。(この点につき破産法第一六一条によれば、破産裁判所は破産管財人に対し監督権を有するが、一般的な指揮命令権を有するものではなく、右監督権の発動も現実には、管財事務につきその報告を求め、または特定の行為につき認可もしくは許可を与えるにとどまり、最終的には解任権により管財人の職務執行につき事実上規制を加えることができるにすぎず、破産裁判所といえども、破産管財人の職務執行につき広範なまたは強力な監督もしくは規制を避け、全体としては後見的立場を持するに止まつている次第であつて、破産法上窺知される破産管財人の職務に対する破産裁判所の謙抑主義は、専ら破産管財人の地位ならびにその管財事務に対する期待に即応するものと解する。)

ところで破産法第四九条によれば「財団債権は破産手続に依らずして随時之を弁済す」る旨および同法第五〇条によれば「財団債権は破産財団より先ず之を弁済す」る旨定めているけれども、前叙の趣旨および同法第五一条第二八六条の諸規定とあわせ考えると、右随時弁済および優先弁済の規定についてはつぎのとおり解するのが相当である。

すなわち財団債権はその有する特別の性質上債権の届出調査等破産債権の行使につき要求される諸手続を経ることを要せず(またこれに対応し破産債権者集会における議決権をも有しない。)、直接破産管財人に対し弁済の請求をすることができ、破産管財人もまた随時原物履行によつて弁済するものであることを定め、もつてその引当財産は同じく破産財団に属する財産であるけれども一般破産債権とことなり、財団債権は債権行使の方法および満足の態様につき、一般破産債権者および破産管財人の共通の準則である破産手続の規制を免かれるものである趣旨を宣明するとともに、破産債権に対する弁済は、破産手続上配当によらねばならないが、一般の債権調査の終了前には原則として破産財団の換価をなしえないし、破産債権も確定しないから配当を行うことができず、配当は一般の債権調査終了後、換価金をもつてなされる(同法第一九六条第一項、第二四〇条第一項参照)ところ、財団債権は原物履行を原則とするから、現実財団に属する財産の換価を要せず、破産管財人の承認により右一般の債権調査の終了をまつまでもなく満足をうける場合があることならびに最後の配当により直ちに破産手続の終了を来たすから、すべての管財事務の処理中、配当事務は進行上最終の事務に該当し、財団債権の弁済は右最後の配当前に行われるべきであることを明らかにするものと解するのが相当である。従つて破産管財人は破産手続の進行に応じ、時には財団債権に対する弁済をなし、時にはその弁済をなさないこともあることを破産法は予定している次第であつて、財団債権といえども同法第七一条第一項の如き特別の定めがない場合には、破産財団に属する財産に対し強制執行をなすことはできないといわなければならない。

二、つぎに被告は、国税徴収法第四七条第一項国税通則法第三七条第三八条の諸規定は、前記特別の定めであるから、右各法条に基ずく本件差押処分は適法である旨主張するので、この点につき当裁判所の判断を示すのに、国税通則法附則第二条によれば、「この法律の施行前にこの法律の施行前の国税に関する法律の規定又はこれに基づき若しくはこれを実施するための命令の規定によつてした督促(中略)その他の処分又は手続で、この法律に相当規定があるものは、この附則又は他の国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き、この法律の相当の規定によつてした相当の処分又は手続とみなす。」旨定め、国税通則法第三八条第一項第一号所定の強制換価手続中には破産手続をも含むことは、国税徴収法第二条第一二号により明らかであるけれども、国税通則法第三八条第一項自体は、納税者の財産につき破産手続等が開始された場合税額の確定した国税につき納期限までに完納されないと認められるものがあるときは、税務署長に対し納期限を繰上げ、納付を請求できる権能を附与する旨定めたにすぎず、同法第三七条第一項の規定は、右の如く納期限を繰上げ納付を請求できる場合等を除き、納税者が国税を納期限までに完納しない場合につき、税務署長に対し、納税者に対して督促状によりその納付を督促すべき職務上の義務を課したものであつて、国税債権の管理を所管する徴税官に対し、該債権を保全し、満足を期すため当然採るべき措置を定めたにすぎないと解する。そして改正国税徴収法第四七条第一項の規定は、同項各号所定の各期限までに国税を完納しないときは、税務署長は滞納者の財産につき差押をなすべき旨を単に定めるにすぎず、他の強制換価手続と競合する場合については別個の規定(例えば滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律)に委ねたものであつて前掲国税通則法の規定は、破産の場合を、納税者が死亡し相続人が限定承認した場合、納税者たる法人の解散の場合、納税者の居所不明の場合と同様に規定していることは明らかであるから、前段詳述のとおり破産法第七一条第一項の規定と併せ考えると右国税徴収法第四七条第一項の規定をもつて、前段所論の特別の定めがあるものと解することはできない。

三、その余の被告の主張は独自の見解であつて当裁判所はいずれも採用しない。

以上のとおり、破産宣告後においては、新たな滞納処分はなしえないものと解するから、冒頭認定の事実関係の下における本件債権差押処分は違法な処分であるから、これが取消しを免がれない。

よつて、その余の点について判断をなすまでもなく、原告らの請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本晃平 大政正一 薦田茂正)

別表第一

年度

(昭和)

税目

納期限

(昭和年月日)

本税(円)

加算税

附帯税(括弧内は破産宣告時後のもの)

利子税

延加税

延滞税

二六

法人税

二六・一・三一

六九、四五〇

二〇、三六〇

(七五、五一〇)

三、四五〇

(二、七三〇)

源泉所得税

二六・五・二〇

八九、二四〇

二九、二五〇

二九、三三〇

(一二三、八八〇)

六、〇五〇

(三、五二〇)

二六・八・三一

九一、六九〇

一二、五〇〇

一八、三四〇

(九九、五八〇)

四、五五〇

(三、六〇〇)

二七・四・二五

九、七五〇

右の合計

二五〇、三八〇

五一、五〇〇

六八、〇三〇

(二九八、九七〇)

一四、〇五〇

(九、八五〇)

(別表第二 省略)

別紙(準備書面)

一、破産宣告前の原因に基く国税債権は財団債権に属することはいうまでもない(破産法四七条二号)。

ところで、一般に財団債権については、債権者は、破産手続によらず随時弁済を求めることができるし(同法四九条)、破産管財人としても、その責任上破産財団より先ず弁済すべきものであるから(同法五〇条)、破産管財人が任意に弁済しない場合、財団債権者が破産財団に属する財産について、破産管財人を相手方として強制執行を行いうることは極めて明らかである(同旨兼子一著強制執行・破産法(法律学講座)四二頁、小野木常著破産法概論八八頁、竹野竹三郎著破産法原論上巻二三頁、斎藤常三郎著破産法(新法学全集)八七頁)。しかして、等しく財団債権である国税債権が、個別執行の能否の点において、他の財団債権と区別して扱われるべき実質的理由はない。したがつて、国税債権以外の財団債権について、破産宣告後も強制執行ができると同様に国税債権についても、破産宣告後滞納処分に着手できるものと解すべき余地は十分にあるものということができる(同旨菊井維大著破産法概要一〇七頁、詳細は、法学新報五九巻一二号二三頁以下の同教授の「財団債権の行使」と題する論文参照、兼子一、恒田文次共著、破産、和議(実務法律講座)九〇頁)。

二、ところで、裁判例としては、破産宣告後新たに滞納処分をすることはできないとし、収税官吏が破産管財人から任意に支払をうけることができないときは、破産裁判所に対する監督権の発動を促して救済を求めるべきである旨判示した裁判例が見受けられる(東京控訴院昭和一五年三月四日判決、法律評論二九巻諸法三〇一頁)。また、学説としても、この判決の見解にそう学説もあつて、しかもそれは必ずしも少数であるとはいえない。しかして破産宣告後の滞納処分の可能性を否定する論拠については、ある学説は、(一)破産管財人は、破産的一般執行の公の機関であるから収税官吏が破産管財人に対し滞納処分を行うときは、国家の公の機関が、同様の性格をもつ機関に対し滞納処分を行うことになつて不当であること、(二)旧国税徴収法施行規則二九条は、破産の場合、既に着手した滞納処分を止め新たに滞納処分を開始しないことを規定したものとみるべきこと及び(三)破産法七一条一項の反面よりの推論を挙げられ(加藤正治著破産法研究七巻二一頁以下、前野順一著、破産法(三省堂コンメンタール叢書)一〇四頁も同旨)、また、ある学説は、(一)破産宣告後滞納処分に着手することを許すと、破産法五一条の割合弁済の原則及び同法二八六条の制限を破るに至るし、(二)旧国税徴収法施行規則二九条から、破産宣告後の滞納処分が許されないことを推知できる、とし、これらの点を論拠として消極説をとられている(斎藤常三郎著日本破産法三〇一頁)。

三、しかし、消極説の論拠とせられる右の諸点は、次に述べるように、必ずしも破産宣告後の滞納処分の可能性を否定する論拠とするに足りないものと考えられる。

(一) 破産管財人の法律上の地位を国家機関とみない立場に立てば破産宣告後の滞納処分が公の機関に対して行われることにはならないから滞納処分の相手が破産管財人となることをもつて、破産宣告後の滞納処分を否定する論拠とする余地はない。またかりに破産管財人を国家機関とみても、そのことは破産宣告後の滞納処分を肯定することの妨げにはならない。すなわち、破産管財人の地位について、後者の立場をとる学者も、財団債権一般について、破産管財人がその債権の成立を争い弁済をしないときは、財団債権者は、破産管財人に対し訴を提起できるものとされるのであるが(加藤正治著前掲破産法研究七巻二一頁以下)、そうである以上、その訴訟の目的とされた同一の請求権の実現手続について、破産管財人が相手方となれない筈はないし、また訴の提起をもつて債権の存在を確定する必要のない国税債権の実現手続としての滞納処分についてのみ、右の例外を認めなければならない理由はないからである。殊に、破産法は、別除権の行使が破産手続によらないで行われることを認め(同法九五条)、別除権者が破産管財人を相手方として、競売法による競売手続等をとりうることを当然のこととしているのであるから、財団債権者の個別執行についてのみ、破産管財人の法的地位を強調して、これを否定することは、いささか根拠に乏しいものといわなければならない。

(二) 旧国税徴収法施行規則二九条は、納税人が破産宣告をうけたときは、収税官吏において、破産管財人に対し滞納税金等の交付を要求すべきことを規定しているが、元来、交付要求の制度は、滞納処分を行わなくても、租税債権の満足をうけることができるとされる場合に、簡便に債権の満足をうける手段として認められたものであつて、滞納処分に代る制度ではないから、交付要求をしたからといつて、滞納処分が全くできないとされるいわれはない。もし、滞納処分を禁じ、交付要求のみにとどめようとすれば、例えば企業担保法二八条のような特別の規定を要するものと解するのが相当である。ところが、破産法はもとより旧国税徴収法、同法施行規則のいずれにおいても、交付要求をした後における滞納処分を禁じた規定は全然存しない。

したがつて、旧国税徴収法施行規則二九条の存在は、別段破産宣告後の滞納処分を否定する論拠にはならないものという外ない。

(三) 破産法七一条一項は、滞納処分のできる債権を同法四七条二号により財団債権としたため設けられた規定であるが、かかる債権も財団債権である以上、破産宣告後も滞納処分を続行できることは当然のことであり、このことは、破産債権についての強制執行が破産宣告によつて失効することを規定した破産法七〇条一項の反面解釈上も明らかであつて、この点からのみ考えれば同法七一条一項は当然のことを注意的に規定したものに過ぎないということができる。ただ、破産法は他の財団債権について、同項と同旨の規定を設けていないので、何故に滞納処分についてのみ破産宣告後これを続行できることを規定したかの点について疑問が生ずるが、これは、滞納処分のできる債権を除く他の財団債権が、原則として破産宣告後に生じた債権であること、及び破産宣告前に生じた債権で、しかも財団債権とされるものであつても、破産宣告前から強制執行が行われていることを予想される債権がないことによるものということができよう。それにしても、滞納処分についてのみ、破産法七一条一項のような規定がおかれているところから、一応この規定の反面解釈が成り立つかのようであるが、破産宣告によつて、破産財団の管理及び処分権限が破産管財人に専属し(破産法七条)、破産者がこれらの権限を失うことに想到すれば、破産法七一条一項は、破産宣告後もなお滞納処分の相手方を破産管財人に変更することなく、従前通り破産者を相手方として滞納処分を続行できるとしたことに特に規定をおいた意味があるものとみるべきであろう。

したがつて、破産法七一条一項の反面解釈が成立つ余地はないものといわなければならない。

(四) 破産法五一条は、破産財団が僅少で、財団債権すら完全に弁済できない場合に、未弁済債権額の割合に従つて平等に弁済すべきことを規定しているが、この平等弁済は、財団債権の未払部分についてのみ行われるのであつて、既払部分にまで遡るわけではないし、一方破産管財人は、財団不足のことを自覚するまでは、破産財団の額を顧慮せずに順次支払つてよいのであるから(加藤正治著、破産法要論一一七頁)、同条の存在は、財団債権者に個別執行を許すことの妨げになるものではない。もし、財団債権者が、個別執行できず、破産管財人からの支払をまつ外ないとすれば、破産管財人の支払方法の如何によつては全額弁済をうける債権者と平等弁済をうけるにとどまる債権者が生ずることもあり、その場合、両者の間に著しい不公平をもたらすことになる。殊に、財団債権者への支払順序が、債権者の請求の順序でなく、全面的に破産管財人に委ねられていることから、なおさら右のような不公平な結果が生ずることを是認することができないのである。

ところで、財団債権者に個別執行を許すときは、債権者以外の者の意思によつて不公平な結果が招来されないばかりか、破産管財人の支払に全面的に依存する場合よりも却て割合平等の原則が貫かれることになる。何故なら、滞納処分以外の民事訴訟法、競売法等に基く執行においては、配当金が各債権者の債権金額を満足させるに足りないときは、権利の優先順位に応じ同順位のときは金額に応じて、平等に、それぞれ配当されることになつているし、また、国税債権等に基く滞納処分にあつても、これらの債権は、これに優先する債権(例えば、破産手続上の費用―旧国税徴収法二条六項)よりも先んじて徴収しないこととされており、しかも、これらの執行においては、配当に異議ある債権者に対し法律上の救済をうけられる途を開いているからである。

(五) 破産法二八六条は、配当すべき金額から弁済をうけることができない旨規定しているから、かかる財団債権者に対する関係では、配当すべき金額は、執行の対象物とはならない。これは、恰かも、相続人が限定承認をした場合に、被相続人の債権者に対する関係で、相続人固有の財産が執行の対象物とならないのと同様である。したがつて、同条の存在は、財団債権(租税債権を含めて)について破産宣告後の個別執行を許さないとすることの論拠にはならない。

(六) なお、前記二項に掲げた裁判例及び学説は、破産管財人が国税の支払を怠るときは、破産裁判所の監督権の発動を促がせば足りるとするのであるが、果してそれのみで足りるであろうか。菊井教授の言を借りれば、「監督は、結局被監督者に直接その行為を改めさせる力はなく、精々その解任という迂路を辿つて間接にその目的を達する外なく、新任者に対しても、また、その迂路をくり返す可能性も存すべく、隔靴掻痒の歎を重ねる危険も存しうるのである」(菊井教授の前掲論文参照)から、破産裁判所の監督作用に委ねることをもつて足りるとすることは到底できないというべきである。

四、しかして、実際上も、もし、国税債権について、破産宣告後滞納処分ができず、破産管財人からの支払をまつ外ないとすれば、破産管財人の態度如何によつては、納税者の立場は破産宣告前よりも遥かに有利な立場におかれることになり、殊に破産管財人によつて、国税よりも他の財団債権者に先ず支払が行われることにでもなれば、法律上の救済方法が与えられないまま、国税は、往々破産法五一条による割合弁済を受認する外ないという結果になり、かくては、公益上の必要から特に国税債権等を財団債権とした法の趣旨は全く没却されることにもなる。したがつて、こうした点から考えても、滞納処分については、破産宣告にかかわらず一般の場合と同様、納付義務者からの任意履行がない以上、これを行うことができるものと解すべき必要がある。

五、かくして、被告は、破産宣告後も滞納処分を行うことができると確信するものである。

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